赤んぼう少女―楳図かずお作品集 (角川ホラー文庫)
2008年12月。ある小さな版元から、18才で夭折した谷口ひとみさんという少女が遺した唯一の、そして伝説の作品「エリノア」が、小冊子のような形で刊行された。みにくい容姿をした女の子の、残酷で悲しい物語。その「エリノア」が掲載された『週刊少女フレンド』で、同じ時期に日本中の少女たちを恐怖のどん底に叩き込んでいた楳図先生―ちなみに「エリノア」が載った号では「へび少女」を連載中だった―が、同誌で連載した「赤んぼう少女(連載時のタイトルは「赤んぼ少女」)」「黒いねこ面」「怪談」の3作品を一挙収録したのがこの文庫。初版が1994年で、2008年8月までに17版を数える、堂々のロングセラーとなっている。印刷が美しく、紙の質もいい。カラー口絵つき。
それにしても表題作―これもまた“みにくい容姿をした女の子の、残酷で悲しい物語”といえよう―の実質的なタイトルロールであるタマミとは、なんとたくましく、エネルギッシュな少女だろうか。そのやるせない情念のたぎり。彼女のバイタリティーの向かった方向は根本的に間違っていたかもしれないが、それでも「こんな風に、ダイ・ハードに生きてみたい!………できれば。」と、人としてまだまだなオレなんかは思うわけである。
「黒いねこ面」も「怪談」も、それぞれ魅力的な作品で、先生も単に本能のおもむくままに怖がらせるだけでなく、恐怖と笑いとの間で絶妙なバランスをとるなど、きちんとエンターテインメントとして成立させているのがすごいと思う。そのあたりの、作り手としての心構えなどは、巻末に収録された楳図先生とオーケンこと大槻ケンヂ―彼が中心的存在であるバンド・筋肉少女帯には、タマミが登場する「マタンゴ」という楽曲があり、その冒頭に登場する「のろいの館」とは、「赤んぼ少女」が初めて単行本化された際のタイトルでもある―との対談の中でもうかがい知ることができる。