国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
佐藤優氏は外務省のノンキャリアでロシア大使館での仕事に従事した後、日本に戻って特殊情報(いわゆるインテリジェンス)担当となる。
外交というものはあくまで国益を追求すべきものだから、必ずしも正々堂々がいい訳ではない。北方領土も、現状を踏まえて且つ相手国たるロシアが本質的に求めるものは何か、を追求しつつ、政治と経済と組み合わせて交渉するのが正しい。
佐藤氏はインテリジェンスの内でも、それまでの経験を活かしたロシア、東欧の仕事が主となる。そしてロシアといえば北海道出身の議員、鈴木宗男氏。「ムネオ・ハウス」なんかで有名になった人。結局佐藤優氏は盟友ともいえる鈴木議員に連座する形で起訴された。
僕はこの本を読むまで鈴木宗男氏は利権をむさぼる汚い奴と思っていた。そして連座した佐藤優氏も典型的な世の中の常識からずれた外務官僚と思っていたが、この本を読んで、それが誰か及びマスコミによって作り上げられた歪んだイメージで、真実はこの本に書かれていることの方が近いと感じた。鈴木氏は利権をむさぼる人ではない。また佐藤氏担当検事の西村氏も指摘していたように、鈴木氏はその政治力、押しの強さ、理念を実現できる強さから多欲な他人、たとえば田中真紀子から嫉妬を受け、しかも鈴木氏自身の欲が少ない為、そのような嫉妬自体に気がつかない。従ってその地位から引きずり下ろされたという。
鈴木氏は立派な政治家だ。そして鈴木氏とタッグを組んで日本の国益の為に頑張った佐藤氏も立派だ。二人とも真の日本男児といえる。
一方の魑魅魍魎、事なかれ主義、必要な時には鈴木氏に土下座してまで従う姿勢をとりながら、いざ鈴木氏が訴追されると、「鈴木氏の強いプレッシャーによってあんなこと、こんなことをさせられた」と掌を返したようなことをする外務官僚たちとは対照的だ。
僕が興味深かったのは検察官同士のこの会話だ。「この国=日本の識字率は5%以下だからね。新聞に一片の真実が出ているもそれを読むのは5%。残り95%の世論はワイドショーと週刊誌によって形成されるのだ」。
鈴木氏と佐藤氏とが国策捜査の対象になったのは、「時代のけじめ」のためだと(検察官が)いうが、それを望んだのは僕ら一般国民の空気だ。マスコミのもたらす表面づらをなぞった情報でもって二人を断罪しようとしたから特捜が動いたのだ。
その意味ではワイドショーと週刊誌によって物事を判断する低俗な僕らが彼らを獄に追いやったともいえる。
僕らは猛烈に反省しなければなるまい。
憂国のラスプーチン 1 (ビッグ コミックス)
すでに「国家の罠」を3回ほど読んだ私は、「ああ、例の話だな」と
追体験するようにこのマンガを読みましたが、そうでない私の家内も、
意外にも夢中になっていました。
このマンガは、ラーメン屋などでパラパラとめくりながら
一人で食事をするときの「お供」のようなマンガではありません。
はまってしまうとラーメンがのびてしまいますし、
興味をもたなければ、このマンガをお供にしたことを後悔するでしょう。
このマンガが、読む人に近づいてくることはありません。
読む人が自分から近づくマンガです。
そんなマンガはいらん、ということなら買わないほうが無難。
しかし、こんな人にはおすすめです。
・「大阪郵便不正事件」などで検察の取り調べ方に関心をもった人
・官僚たちの考え方がどうなっているか知りたい人
・世間でいわれている真実とは、決して一つではないのではないかと思う人
・2回、3回と読めることで「ひとつぶ(一冊)で二度おいしい」効果を得たい人
「国家の罠」を読んでからこのマンガに入ると、絵によるイメージ化で
追体験ができて楽しいと思いますが、マンガを読んでから「国家の罠」に進んでも
よいかも知れません。
他の方が書いておられたように、どうも主人公憂木と実物の佐藤優さんの
声と現在の姿がかぶらないのですが、その点は割引くしかないですね。
いずれにしても、「国家の罠」でかかれた検察の取り調べ方は、当時なら
読者も半信半疑だったかも知れませんが、このマンガを通して現在を認識すると、
「きっとそうなんだろうな」と違和感なく読者に受け入れられるのではないでしょうか。
その意味では、検察官にも歩留まりの意識をもたせて、ヘタなことが今後は
できにくくなり、それは国民の利益にも、彼ら検察官の利益にも叶うものだと思います。
その意味ではとても重要な要素を秘めているマンガといえるでしょう。