
成瀬巳喜男 THE MASTERWORKS 1 [DVD]
~私は、今まで男系の映画の方が見る事が多かった事に気付かされます。成瀬さんは、小津、黒澤とは違って、女系の映画でした。女の人がフレームの中で生き生きと描かれています。演技一つ一つが、意味がありこちらを虜にします。「浮雲」の高峰秀子さんは、最初投げやりなせりふ回しに「何?」って思いましたが、見ているうちに色々なバッググラウンドを知る事~~で、納得がいきます。~

ナニカアル
前作「IN」は島尾敏雄を未読なせいなのか、どんなに本人に重大事でも他人から見ると「不倫」の一言ですんでしまう、どこかシラケてしまう処があった。
同じく不倫が語られていても、さらに主人公に全く共感できなくても「柔らかな頬」の物語に魅了された一読者としては 桐野夏生が力強さをなくしたように思えて残念だった。
その点、林芙美子は読んだことのない人でも(森光子のおかげで)少しは知識があるだろう。
かく言う私も昔「放浪記」を斜め読みしただけで、よく覚えていない。
作者は林芙美子になりきって文体模写しているらしいのだが、林芙美子ファンにはその辺もたまらない魅力だろう。
しかし私のように林芙美子に知識がなくても、林芙美子の「野性」とでもいうべき魅力はよ〜く伝わる。
ここでの林芙美子はすっかり作家として成功し、温厚な理解者の夫と最愛の母と大きな屋敷に住んでいる。
しかし年下の記者と不倫関係にあり、戦地へ向かう船の中で行きずりの男と関係を持ち、40にして不倫の子を産む決断も深刻な様相を見せない。
さらに同時代の作家たちとの関係も面白い。被害妄想的な敵意を抱いたり、女流作家同士の複雑な感情、反対に心からの共感を持って詫びたり、どうも知的で平和な関係を築くのは苦手のようである。変な言い方をすると”育ちの悪い”魅力全開な人なのである。
林芙美子本人の著作を読みたくなる作品である。

3D 『脳で感じる朗読』
最近はオーディオブックが日本でも流行りだしているが、このCDは単なるオーディオブックではない。脳への効果が期待できる特殊効果音(脳の中を音が動き回っているような3D音源)が、朗読の中に織り込まれている。
活字だけだと淡々とした古典文学も、こうした効果音が入ることでハリウッド映画並みに迫力が増す。文学の新しい楽しみ方を提供してくれている貴重なCDだ。何度も聞いてしまう。とくに『トロッコ』(芥川龍之介)と『よだかの星』(宮沢賢治)がお勧め。

放浪記 [DVD]
気難しい主人公の表情が面白い。高峰秀子が熱演しているのだが、いつも、不平不満を言いたげな、ふくれっ面である。それもそのはず、大変貧乏をしてしまい、おまけに、男運も悪いときているのだから、仕方ないだろう。でも、最終的には、大成をなしとげ、貧乏から抜け出ることが出来、母親にも孝行できたのだから、良かったのではないだろうか・・・。近年、森光子主演で、お芝居にもなっているようだし、また、チャンスがあったら、観てみたいと思う。

浮雲 (新潮文庫)
戦後の退廃した時代を舞台に、安南で出会い、すごした美しい思い出が忘れられず、
盛りを過ぎた愛にしがみつく女と、別れたいのに女を突き放しきれない男の腐れ縁の物語。
物語の最初のほうで語られる安南での夢のような日々。一方内地に引き上げてからの
住む場所にも事欠くような鬱々とした日々。その対比が二人の色あせた関係のわびしさを
いっそう際立たせている。物語はゆき子と富岡の視点から交互に語られるが、
他の男に生きるために頼るものの、富岡だけを一途に想うゆき子と、次々と他の女に
目移りしつつ、わずらわしくなってきたゆき子を捨てきれない富岡に、男女の典型的な
恋愛間の違いを見せ付けられる気がする。