狂人日記 (講談社文芸文庫)
自分は幻覚を体験したことはないけれど、「狂人」になってしまった本人(色川さん)にしか苦しみはわからないだろう。
わかろうとしても、彼自身の私小説的で、圧倒的な描写に、おそれおののきつつ、読み進めるばかりでした。
ただ作品全体が病に覆われているかというとそうでもなく、時間の流れがおだやかな場面もあり、それ故その後の彼の苦しみが増幅されるのかもしれません。
麻雀放浪記 [DVD]
素晴らしい作品。
ただただ、そういわざるを得ません。
登場人物は、現代の日本においては、全人格を否定されてもおかしくない人ばかり。
女衒に博打打、登場人物は全てそう。
しかし、戦後の日本には確実に存在したであろう、この人々を、
真摯に描いたこの作品は、華美な演出もなく淡々と人間模様と博打(麻雀)を交互に見せることによって、
博打ですら人生の一部であるかのように、思い入れ深く描いています。
高品格さんの演技もですが、卓を囲む4人のなんともいえない雰囲気。
最初は積むことすらままならなかった哲が、最後の勝負では出目徳さえも欺いてしまう。
そしていまや語り草の「九連宝燈」。
最後の最後まで博打に生きた人々を描いた傑作。
決して誰にでも勧められる作品ではないが、見る人を選ぶ作品かもしれません。
それでも素晴らしい映画であることに変わりはない。
いねむり先生
この度の大震災で、作者も仙台にて被災されたと聞く。お見舞いを申し上げるとともに、こんな時だからこそこういった良質の文学書こそ「心の復興」を手助けしてくれると強く信じる。
ギャンブラー=無頼派、というわけではないのだろうが、世間的には「ギャンブルの神様」とその遺志を継ぐ作者との淡白なようだが、密度の濃い交わりを書く好著。とくにギャンブルに造詣が深くなくとも十分に楽しめるだろう。
作者もかなり若い頃という設定なので、あまり小説的な技巧に走らず、師匠と共有できたあたたかな時間を淡々と綴っている。先生にとってはたいへんな病気には違いないのだが、麻雀の途中でも眠ってしまう「ナルコレプシー」や富士山を見ただけで失神してしまう「先端恐怖症」など、失礼ながらはたから見ている分には、どこかユーモラスだし、二人で遠くの競輪場まで遠征する「旅打ち」は、まさに羨ましい限り。
大切な妻を亡くした喪失感を徐々に埋めてくれる先生の「大人(たいじん)」感が読者にも伝わり、読んだ後も自然に暖かい気持ちが包んでくれる。