
サティ:管弦楽作品集(再プレス)
エリック・サティは、ピアノ曲などが有名ですが、これは、サティとしては珍しい管弦楽を中心にした、発売当時、世界初録音だったと記憶しています。サティは、ちょっと偏屈な性格もあり、シャンソンなどの歌曲(サティは、本当の音楽は、コンサートホールではなく、カフェにあると主張したそうな)も手がけています。このCDは、今で言うミニマルミュージックの元祖であり、19世紀末に試みられていたという驚異的事実が判ります。特に最後のピアノ曲「ヴェクサシオン」は、9分程度の録音ですが、サティは、これを940回繰り返す(!)という指示をしています。サティの指示通り演奏するには、数人のピアニストが交代で弾いても早くて20時間はかかるというしろものです。CDなので、リピート機能で聴く事が可能ですが、これを実行すれば、完全に環境音楽になります。半世紀早すぎた天才サティがここに居ます。

シューベルト:ピアノソナタ全集
ミシェル・ダルベルトのシューベルトピアノ作品全集。1989年〜95年の録音。
全集を謳うが完全な全集ではない。それでも、他ではこれだけまとまってシューベルトのピアノ作品を聴けない。その点でも稀少なセットだが、演奏自体の水準が高く、シューベルティアンは是非持っていたい。
演奏スタイルは、概ねゆったりとしたテンポで抑制を効かせている。慎ましいシューベルトだ。
ディスク1の冒頭、ソナタイ短調(第16番)からして、繊細で感じ入った調べを決して急ぐことなく紡いでいる感じ。ディスク2の『楽興の時』の有名な第3番、ディスク5の『4つの即興曲』作品90(D899)の第1番ハ短調などはその典型であり、静かながらも深く、時に怖いような哀しみに打たれる。尤も、シューベルトはそういう音楽を書いたのだが、スローなインテンポが大きな説得力を持っていて、ゆったりしているのに哀しみが次々に押し寄せてくるようだ。この曲の第3番アンダンテには、ダルベルトの資質が顕著。アルペッジョ風の左手の明晰ながらも霞がかかったようなヴェールの幻想性!
ディスク6の作品142(D935)のもうひとつの即興曲もよい。 これはセット全曲の白眉か?
暴力的なところ、鋭すぎるところなどは一切ない。慎ましいスタンスは崩さないが、惻々たる哀しみがゆっくりと胸に忍び込む。この演奏に較べれば多くの演奏はハッタリを効かせているなあ。よい意味でも悪い意味でも。
あとは晩年のソナタの出来が問われるところだが、果たしてどうか? その点で判断保留して★4つ。
ダルベルトは聴き手を驚かせてやろうとは絶対にしない。今回初めて耳にしたいくつかのワルツやエコセーズ、メヌエットにこそダルベルトの美点が現われているとも言える。まず、そういった小品に耳を傾けてほしい。それから晩年の“大作”(シューベルトに大作は相応しくないが)を聴いても遅くない。
変イ長調の即興曲も相変わらず慎ましいが、悲劇の頂点は凄惨な世界を開示しさえする。変ロ長調の変奏曲の可憐さにも、どこか不安げなシューベルトの影が差していて、美しいけれど(美しいゆえに)心内が冷たくなっていくようだ・・・・。
このところ、アニバーサリーもあってショパンのディスクをいろいろと聴いているが、そのたびにシューベルトが聴きたくなるのである。好みもあるけど、シューベルトのほうがずっと上だな・・・・。