
「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)
遺伝子が心にどのような影響を与えているのだろうか。ゲノム脳科学(neurogenomics)はその謎にいどむ。
遺伝子の働きの基本的なことを押さえたうえで,前半ではノックアウトマウスを用いた記憶や心の病を中心とした研究のエッセンスが紹介されている。
後半では著者みずから民間の遺伝子解析サービスを利用し,自分の遺伝子データの一部を読み解いていく。いまや2万円で,部分的だとはいえ多くの遺伝子情報が得られる時代になっているのだ。まさにオーダーメイド医療の時代が近付いている。
ただ,著者が述べるようにある特定の遺伝子の働きが研究の結果明らかになりつつあるとはいえ,それは平均的な傾向でしかないし,その心的特性に影響を与えるほかの遺伝子が非常にたくさんあるにもかかわらず,それはまだ解明されていない。まだどの遺伝子(たち)がどんな働きをしているのかについての明確な答えが出ているわけではないのだ。
とはいえ,私たちが遺伝子の影響を強く受けていることは疑いようがない。こうした流れの中で,それぞれの人が,自分の遺伝情報を得たいと思うのか,それをより活用したいと思うのか,それともそれは触れるべきものではない,と思うのか。
自分の遺伝子を,あるいは子どもの遺伝子をよりよくしたい,というエンハンスメントの発想は,おそらく富裕層を中心に高まるに違いない。しかしいっぽうで,疾患や障害に対する差別の問題,自分の遺伝情報を知ることによるストレス,経済格差の固定化の問題,医療や保険サービスへの波及効果など,さまざまな影響をもつものである。それらについての議論や合意は不可欠であろう。
本書でもこうした倫理的な問題など取り上げてはいるものの,それでもまだ著者はゲノム脳科学の進歩の社会への影響について,楽観的過ぎるように感じた。科学者はそんなものなのかもしれないけれど。
ゲノム脳科学の時代の到来を前に,読んでおくべき入門書である。

遺伝子医療革命―ゲノム科学がわたしたちを変える
原題はThe Language of Life でその副題の Personalized Medicine が本書の主題らしい。薬を服用する立場からは9章の「あなたの遺伝子にふさわしい薬・・」が参考になる。291頁以降に紹介されているメルカプトリン、クロピドグレル、抗うつ薬、ワルファリンなどの注意事項は参考になる。
昨年、「長島の様な症状防止に役立つ」とワルファリン服用を心臓医に薦められたが、本書によるとこの薬は2004年の副作用死亡最多で抗血液凝固薬の適量投与は難しいらしい。2008年にFDAは適量検査を勧告している由。分解酵素の活性を左右する遺伝子が関与しており、「DxRxパラダイム」適用第一号になりそうな程適量決定が難しいらしい。
医者はxx錠飲んでみて様子を見ましょう程度のことは言っていたが、本来は遺伝子解析が必要らしい。とても飲む気にはなれない。
この医者はインフォームドコンセント上でも問題がある。
これほど苦労しても、薬そのものの効果がそれほど高くないことをWeb情報で得たので、服用を拒否して良かったと改めて確認した。
この部分以外では、遺伝子一般の記述が殆どで邦訳の書名ほどの内容とは言い難い。