
罪と罰
1.内容
いわゆる光市(母子殺害)事件をきっかけとして、弁護士のこと、精神鑑定のこと、被害者の権利のこと、死刑をどう考えるか、犯罪をどう帰責させるべきか、報道がどうあるべきか、を、遺族の本村洋さんと、本村さんを「最初に訪ねて来られた」藤井誠二さん、藤井さんに紹介された宮崎哲弥さんとで語ったものである。
2.評価
(1)何よりも長所は、本村さんが冷静に語っていることである。反論したいところもあるが(たとえば、犯罪のない社会は、申し訳ないが実現しない。人間は何かの拍子で犯罪を犯すもの)、本村さんの発言が一番参考になった。また、被害者の権利を考えるきっかけになる記述が多いし、公平を期そうとしているところもあった(p122「死刑制度のが凶悪犯罪を抑止しているという一般予防効果には、実証的な犯罪学の立場からかなり疑問符が付けられているのが現状」、p141「死刑制度の維持、死刑確定者の管理というのは、とてもコストがかかるんですよ」(ともに「死刑廃止論者」(p97)の宮崎さんの発言。ただ、一般的な廃止論の人と根拠が異なる上に、「理念もなければ、理論もない死刑廃止」(p131)には反対だそうだ)。
(2)短所は、批判が単なる悪口に堕していたり、有効とは思われなかったり、といったところが多いところ。(ア)評論家やジャーナリストがいくら取材しても、弁護士と依頼者(被告人)の間がわかるわけがないので、推測で弁護士を批判することには意味がない。勢いあまって「名古屋アベック殺人事件でもまったく同じ方法で、主犯格『少年』の無期懲役を『勝ち取った』」(p31)と、さも問題のある弁護をしているかのように(実際は弁護士が優秀だから無期懲役になったという側面がある)書くのは、犯罪的(名誉毀損)だろう。(イ)野田さんや精神鑑定に対する批判も有効でない(野田さんの矛盾を突いても仕方ない(また、野田説が正しいかは判断できない)、心神喪失・こう弱(刑法第39条)=精神病ではない、など)。(ウ)死刑の存廃論については、廃止論者を「自分に都合のいい解釈」(p108)などと罵りながら、誤判の回復可能性の違いや、人が(犯罪者も)生命に対して権利を持つ(法的拘束力はないが、世界人権宣言第3条)ことは考慮していないのだから、「自分に都合のいい解釈」は同じだろう。(エ)BPO批判も、委員の事件と直接関係ないプロフィールを批判するなどお粗末なものだった。
(3)以上、長所は星4つ、短所は星2つ、中間を取って星3つ。