ニッポン野球の青春―武士道野球から興奮の早慶戦へ
この本は決して早慶戦の歴史本でも、早慶戦百周年の記念本でもない。「野球はこうして国民スポーツとなった!」を知ることができる、正に日本野球の歴史本であった。しかも単なる歴史本ではなく、読み物として完成された作品と言える。かつてここまでわかりやすく、読みやすく、面白い野球史本があっただろうか。
野球を普及させた一高の武士道精神と死の練習。その一高を偶然にも同時期に破って突如球界の双璧となった早慶両校。日露戦争中をも顧みず渡米を決行し、日本に近代野球術を輸入した早稲田の破天荒ぶり。早慶戦の中止と復活が呼び起こした熱狂と興奮の爆発。六大学リーグ戦が招致した野球狂時代とその殺人的な野球の人気ぶり。
これらの話は、本当はフィクションではないのかと疑いたくなる程、劇的で驚異的な史実ばかりで、あまりの面白さに思わず惹き込まれてしまう。
メジャーリーグもいいが、日本野球への陶酔の念が湧き起こってくる秀逸の一冊である。野球ファンならずとも、日本人ならばぜひ読んでみるべきだというのは言い過ぎであろうか。
英霊たちの応援歌 最後の早慶戦 [DVD]
主人公たちが変に文学青年、インテリぶってない体育会の人達なのが良かった。
彼等は、単純に国を救う為に自分ができる事を考えて特攻に志願したのだと思う。
最後までさわやかに、諧謔を持ち、自身の苦悩を他者に押し付けず、
できるだけ明るく振る舞い、堂々と死んでいこうとする彼らの姿には少なからず心を揺さぶられた。
学徒出陣を扱った他の映画(出口のない海、最後の早慶戦、北辰斜めにさすところ、きけわだつみのこえ(カラー版))の中では
もっとも丁寧に、自然に当時の若者達の姿を描こうとした映画ではないかと思う。
(岩波の「きけわだつみのこえ」の若者達を一番彷彿とすることができる。)
戦後まで生き残り戦中の記憶を綴った名作も多いが、こういった物語、映画もこころに刻まれるものが多い。
ラストゲーム 最後の早慶戦 (通常版) [DVD]
1943年、敵国のスポーツである野球に向けられる眼が厳しくなって6大学野球が廃止され、大学生に対する徴兵猶予が停止されることとなった状況下で、戦場に赴かなければならない野球部員のために最後の早慶戦を挙行しようと頑張る早稲田大学野球部顧問飛田穂州(柄本明)、賛成の慶応大学塾長小泉信三(石坂浩二)が、津田左右吉問題等があってこれ以上当局ににらまれることを危惧する早稲田大学総長田中穂積(藤田まこと)の反対を押し切って、戸塚野球場に早稲田チームが慶応チームを招く形で試合を挙行する。それに個々の学生の揺れる心をからませた反戦映画。柄本明、藤田まこと、石坂浩二の存在感はさすが。しかし、肝心の試合は練習を中止して部員が親元に帰っていた慶応チームの練習不足が理由で、早稲田の一方的な勝利となり緊迫感がない。試合の描写も非常にあっさり。最後の応援歌の交換で盛り上げたかったのだろうが、ロングの撮影で今ひとつ。また、個々の野球選手の描き分けが十分ではない。特に慶応の選手たちはその他大勢的な扱い。その中では、早稲田の選手戸田順治(渡辺大)の家の中での葛藤にはフォーカスがあてられおり、父(山本圭)が本音を明かす場面は胸を打つ。65年前にこのようなドラマがあったことを語り継ぎ、本作に込められた反戦のメッセージ、若くして散った学生の思いは大切にしなければならないと思うが、正直なところ、映画の出来としては並、というのが私の感想。
それにしても、今年になってから柄本明、富司純子が出演する映画を何本観ただろうか。両人の演技(本作では特に柄本明)は本作でも光っているが、同じ俳優に依存してばかりでは、近年好調の邦画の先行きに若干の懸念を感じる。
"ONE OF PILLARS" ~BEST OF CHIHIRO ONITSUKA 2000-2010~
この人はデビューして既に10年にもなるのですね。日本のPopをあまり聴かなくなっていたので、実は最近まで、彼女の曲をよく知りませんでした。ところが、Netで彼女の”Castle・imitation”を偶然聴いて衝撃を受けました。透き通った、脳髄液を共振させる様な?バイブレーションを持つ彼女の歌声と、痛切に訴えてくる詞が絡み合い、感動と言うよりは、彼女の”叫び”が、鋭いガラス片の様に心に深く突きささって来ました。日本の若いSSWにもこんな人がいるんだ、と妙に嬉しくなったのを覚えています。
本編は、デビュー10周年に当たるベスト盤という事ですが、普段J-Popをあまり聞かない年配の方に特にお勧めです。冒頭の”月光”を初めとする、”眩暈”、”infection”、”流星群”・・・等の代表曲とも言える曲には、作詞家としての彼女の強烈な個性と、比類ないボーカリストとしての魅力が存分に発揮されています。アーティストの鋭く若い感性が描く詞は、日常の垢にまみれながら、まみれている事にすら気づかなくなってしまった、硬直した自分自身に気づかせてくれます。そして、壊れそうに繊細で透き通った歌声は、闇の中の一縷(いちる)の光の様に、ほのかな生への希望を与えてくれます。
お勧めは前記の曲の他、本編には収録されていませんが、私の大好きな”茨の海”、”BACK DOOR ”、”声”等数多いです。Netにも彼女の曲が多数UPされているので、是非、聴いてみて下さい。